旧国道37号
時々立ち止まるたびに、誰かかれか、追いついてくる。
明るい浅葱色のトレーナーにジーンズに、真っ赤なリュックという伊藤桂子さんが、ひときわまぶしい。
たのしそうな顔、顔、顔。
今日もねらいが当たったなあ-この道は、実は北海道にある国道37号の旧道なのである。
新しい国道が山裾に沿って直線的に静狩峠へ向かい、トンネルで峠をくぐったあとまた一直線に室蘭をめざすのに対して、旧道はほとんど等高線に平行にひどく屈曲しながら高い山腹を縫い、トンネルなしのほんとうの峠越えをしている。
クルマはもう全く通らなくなり、人もほとんど歩かなくなって半ば打ち捨てられているのであろうその地図上の姿が、いたく私の足をうずうずさせたのであった。
そしてそれが予想通り、いや予想をはるかに超えて、快く愉しい道だったのである。
この道のためだけに北海道 旅行に来た甲斐があった。
この峠越えの旧道が伐り開かれたのは、江戸時代のことらしい。
静狩を「山の手前の行き止まり」にした断崖の下に海沿いの道をつけることは不可能に近い難事であったので、このような「山道」がつくられたのだ。
明治に入っても山道は一向に改修されなかった。
旅人の多くは難渋な陸路を避けて、森から室蘭への船を利用したせいもあって。
昭和40年に現国道が開通するまで、明治27年にようやく小規模な改修が行われただけで、はるか昔の峠道とあまり変わりのない姿を、それは保っていたのである。
そして今また道は、江戸から明治にかけての趣きを、よみがえらせているのであった。