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電話とは アーカイブ

よく使うモノの歴史 その1

☆電話

電話は20世紀になって誕生したメディアではありません。

1876年、電話は教師をしていたアレクサンダー・グラハム・ベルによって発明されました。

すでにこの発明につながる音声送信は19世紀半ばから試みられていたし、エリシャ・グレイもほぼ同時に発明をしていたから、電話は19世紀という時代がもたらした所産の一つともいえます。

しかし、このとき発明されたのは、今日考えられているような「電話」だったのでしょうか。

たとえば当時、電話はまだあくまで電信の派生物と見なされていました。

特許を獲得した翌年、ベルらは電話に関する全権利をウェスタン・ユニオン電信会社に10万ドルで売却しようとしますが、同社は電話を「玩具」としか認めませんでした。

よく使うモノの歴史 その2

☆電話

当時の常識では、電信こそ電話よりもはるかに将来性のあるメディアでした。

この時代、電信技術の改良が次々になされ、アルファベットを自動的に信号化する装置や一回線で複数の信号を同時に電送できる方式、家庭から医者や警察を呼べる電信などが開発されていました。

誰の目にも、電信の将来は洋々たるものでした。

他方の電話は雑音が激しく、記録性もなく、とても電信に太刀打ちできるとは思えなかったのです。

その後、電話は次第に電信を凌駕していきますが、それでも電話のイメージは相変わらず電信に支配されつづけました。

よく使うモノの歴史 その3

☆電話

電話をあくまで電信の延長線上に位置づけていた事業家たちは、当初、交換手としてそれまで電信に従事していた若い男たちを採用します。

彼らにとって、電報を配達することと電話の回線をつなぐことは同じ種類のことがらに見えたのです。

しかし、採用された少年たちは、いくら電信に詳しくとも日常的な会話の媒介者としてはまったく不適格でした。

彼らは交換台で何時間も黙々と作業することには耐えられず、顧客をネタに冗談をとばし、床の上でレスリングまで始めてしまっでした。

よく使うモノの歴史 その4

初期の電話は、多分にそれまでの電信のイメージを引き継いでいましたが、同時にラジオのイメージとも未分化でした。

たとえば、1881年のパリ国際電気博で最も人気を呼んだのはテアトロフォンと呼ばれる電話装置で、パリの有数な劇場での公演が実況中継されていたそうです。

続いて1890年代には、パリやロンドン、アメリカ各都市で劇場公演やコンサートの電話による中継が事業化されていきました。

これらの都市では、より広範な大衆を相手にするコイン式の電話装置も登場します。

人々は、有名ホテルのロビーや盛り場に設置された電話にコインを投下することで、受話器から流れる音楽や演劇を楽しんだのです。

よく使うモノの歴史 その5

電話で中継されたのは音楽だけではありませんでした。

教会のミサも、電話によるユニークな中継が行われていたそうです。

世紀末のイギリスでは、電話を使う説教師が現れていたようだし、アメリカでは、東部の大都市から南部の小さな町まで、加入者たちと地域の教会が電話回線でつながれて、多数の教区民が受話器を通して礼拝式に参加していました。

またたとえば、選挙キャンペーンも電話による中継が行われていたとか。

電話による選挙速報も1892年の大統領選から組織されはじめています。

こうした電話のラジオ的な利用は、さらにスポーツ試合の報道から大都市でのパレードの中継、センセーショナルな殺人事件の裁判の中継にまで及んでいました。

よく使うモノの歴史 その6

電信のようでもラジオのようでもあった初期の電話。

この電話はいったいいつ頃から、今日のような会話のメディアとなっていくのでしょうか。

20世紀初頭の電話に起きた変化として、まず交換手の変化を挙げておきます。

北米の場合、少年たちに代わって雇われていった初期の女性交換手たちは、交換業務を通じ、各地のネットワーカーの役割を演じていく。

地域的な電話網が発達途上の時代、交換手は地域の契約者のことを知っていたし、契約者も交換手の名前を知っていました。

したがって、交換手と回線加入者との関係は、通話をつなぐという以上のパーソナルな性格を帯びていたのです。

彼らは暇な時間帯には長々とおしゃべりを交わしてもいました。

電話会社はこうした交換手の活動を禁ずるのではなく、客を回線網につなぎとめておく手段と考えていました。

よく使うモノの歴史 その7

今世紀初頭、電話網が膨大な端末を持つシステムとして整備されていくと、事業家は交換手の労働を最大限効率化し始めます。

とりわけここで生じたのが彼女たちの声の規格化でした。

産業はしだいに「電話らしい声」を定義し、そうした声を用いるよう交換手たちを指導していきました。

かつては「声の良い」交換手よりも「機転のきく」交換手が重要でした。

だが今や、産業は「良い声」を採用基準として用い、現場の交換手たちの「声」をチェックし、矯正するシステムも発達させていくのです。

こうして交換手たちの発話における人格的要素は最大限排除され、彼女たちはネットワーカーというよりも、一定の声のトーンで回線を接続する交換機械と化していったのでした。

よく使うモノの歴史 その8

今世紀初頭、交換手側に起きたのが「声」の規格化なら、通話者側に起きたのは「声」の市場化でした。

草創期の事業家たちは電信的なイメージに捉えられており、電話を距離を超えた友人や家族のおしゃべりメディアとは考えていませんでした。

ところが1920年代、産業側は突如として電話を家庭における社交性のメディアとして広告し始めます。

たとえば、1923年のベル電話会社の広告は、

「電話は私たちを、ほとんど実際に面と向かっているのと同じような状態にさせてくれます。これは、実際に会うのの次に優れたやり方です。・・・皆様に『貴方の声は貴方自身であること』に気づいていただきたいのです」

と宣伝していく。

こうした認識の転換が生じた背景には、20年代の北米で、自動車や家電製品が大衆消費財として爆発的に普及していったことに対する電話事業者のあせりがあったそうです。

よく使うモノの歴史 その9

電話をより大衆的に普及させていくには、自動車やラジオを争うように買い揃え、デパートでのショッピングに興じる層の嗜好を意識していく必要がありました。

今や電話のセールスは、自動車のそれと同じように快適さやテイストによる差別化の欲求を満たさなければならなかったのです。

そうしたなかで、友人の電話番号を知っていることを強調する広告が考案され、私的な親密圏と電話のネットワークが重ね合わされてもいきました。

電話はいまや、必要を満たす手段という以上に、快適な生活を楽しむための消費財と見られ始めたのです。

よく使うモノの歴史 その10

今日的な意味での電話が誕生したのは、まさにこの時でした。

技術的には19世紀後半から開発されていても、会話のメディアとして電話が成立するのは、まさにこの第一次大戦後のことなのです。

そして電話は20世紀の会話メディアとして、ラジオやテレビと並行しながら大発展を遂げていきました。

我々は今日、電話によるおしゃべりの声が地球を覆い、ほとんど距離の遠近法を麻痺させてしまう社会を生きています。

街を歩けば至るところで携帯電話を手にした人とすれ違い、家でも長電話はごく日常的な慣習です。

よく使うモノの歴史 その11

電話はもはや現代人のコミュニケーション世界を完全に制圧してしまったようです。

この状況を、前世紀のパイオニアたちの誰が予想したでしょうか。

たしかにベルは、「水道やガスのように電話線が家々に取りつけられる日」を夢見てはいました。

今日、電話はこのベルの夢をさらに超えて大発展を遂げたわけですが、その最大の要因が、おそらくは発明家の天才でも、人類のおしゃべり欲求でもなく、声を規格化し、市場化していこうとする20世紀の資本主義のあくなき欲望であったことは忘れないでおくことにます。

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